コスト削減の極意「人が行う必要のない仕事を減らす」
「コスト削減と言われても、現場の仕事を増やしたくない」
「システムの費用を減らすために、今使っているツールをなくすのは不安」
「日々の業務が忙しい中で、さらにコスト削減の取り組みまで行うのは難しい」
企業のコスト削減を担当する方の中には、このように感じている方も多いのではないでしょうか。
コスト削減という言葉から、「経費を減らす」「使える予算を減らす」といったイメージを持つかもしれません。しかし、本来のコスト削減は、必ずしも現場に我慢や負担を求めるものではありません。
むしろ、日々の業務の中にある手間や重複作業を減らし、現場の負担を軽くすることが、結果としてコスト削減につながる場合があります。
たとえば、毎日行っているデータ入力、紙書類の処理、Excelへの転記、複数のシステムへの情報入力などです。
一つひとつは小さな作業でも、毎日・毎月繰り返していれば、企業全体では多くの時間が使われています。実際に中小企業庁の「2024年版中小企業白書 第7節 DX」では、中小企業・小規模事業者がDXに取り組む際の効果・メリットとして、「業務効率化による負担軽減」が多く挙げられています。
この記事では、コストとは何か、コスト削減とはどのように考えるべきかを整理したうえで、「現場の負担を減らす」という視点から、ITコスト・業務コストを見直す方法を解説します。
コストとは「お金」だけでなく業務にかかる時間や手間もコスト
企業におけるコストというと、まず人件費やシステム利用料、オフィス賃料、通信費などの「支出」を思い浮かべるでしょう。もちろん、これらは重要なコストです。
しかし、業務を行うために使っている「時間」や「手間」も、企業活動を考えるうえでは無視できません。
たとえば、営業担当者が顧客情報を入力するために、毎日30分を使っているとします。
その作業に追加の料金が発生していなくても、社員がその時間を営業活動や顧客対応などに使えないのであれば、企業にとっては業務上の負担です。
同じように、
- 紙の書類を印刷する
- 書類を確認する
- Excelに転記する
- 複数のシステムに同じ情報を入力する
- 毎月同じデータを集計する
- 不要になったアカウントを整理する
- システムごとに異なる操作を覚える
といった作業にも、社員の時間が使われています。
コストを考えるときには、「いくらお金を使っているか」だけでなく、「どれだけの時間や手間を使っているか」という視点も重要になります。
ITコストとは?システムの料金だけでなく、管理・運用にかかる負担も含めて考える
ITコストとは、企業がITを利用するために必要となる費用です。
- 業務システムの利用料
- クラウドサービスの利用料
- ソフトウェアのライセンス費用
- パソコンやスマートフォンなどの端末費用
- ネットワーク費用
- サーバー費用
- システムの保守・運用費
- IT関連の外注費
- セキュリティ対策費用
ITコストを考える場合、料金だけを見るのでは十分ではありません。
複数のサービスを利用していると、それぞれについて契約管理やアカウント管理、問い合わせ対応、操作方法の確認などが必要になります。
つまり、「システムを利用するために発生する管理業務」も、企業が負担しているコストの一つとして考えることができます。そのため、ITコスト削減では「どのサービスを解約するか」だけではなく、「今の仕組みで現場にどのような手間が発生しているか」まで確認することが重要です。
ムダな負担を減らして必要な業務に集中する
コスト削減とは、企業活動に必要な費用を減らすことです。しかし、現場にとって望ましいコスト削減を考えるなら、単純に「支出を減らす」だけでは不十分です。月額10万円のシステムを解約すれば、年間120万円の支出を減らせます。
ところが、そのシステムによって社員の作業時間を大きく削減できていた場合、解約後に手作業が増える可能性があります。そうなると、システムの費用は減っても、現場の負担は増えてしまいます。
そこで重要になるのが、
「何を削るか」ではなく、「どうすればムダな負担を減らせるか」
という考え方です。
たとえば、
手作業を減らす
↓
社員が使う時間を減らす
↓
業務を効率化する
↓
必要な仕事に人員・時間を振り向けられる
↓
結果として業務コストを抑えられる
という流れです。これは、現場の人員を単純に減らすという考え方とは異なります。人が行わなくてもよい作業を減らし、人にしかできない仕事へ時間を振り向けることが、業務コスト削減の重要な考え方です。
なぜ「現場の負担軽減」からコスト削減を考えるのか
コスト削減を進めるとき、経営側からは「いくら削減できるか」が重視されがちです。
一方、実際に業務を行っている現場では、「その変更によって仕事がどう変わるのか」が重要になります。この2つの視点を両立させることが、コスト削減を継続するうえで重要です。
中小企業庁の「2024年版中小企業白書 第7節 DX」では、DXの効果・メリットとして「業務効率化による負担軽減」が多く挙げられていることが示されています。
また、「2025年版小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX」では、デジタル化の段階の一つとして、デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組む状態が示されています。
つまり、コスト削減を「経費を削る活動」としてだけ考えるのではなく、
「現場が抱えている余計な作業を減らす活動」
として捉えることができます。
業務負担を減らすことでコスト削減につながる4つのポイント
では、具体的にどのような業務を見直せばよいのでしょうか。
1.二重入力・転記作業を減らす
多くの企業で発生しやすいのが、同じ情報を複数回入力する作業です。
たとえば、営業担当者が顧客情報をシステムAに登録した後、管理部門がその情報をExcelに転記し、さらに別のシステムへ入力するとします。
1回の入力が数分で終わるとしても、毎日繰り返せば大きな負担になります。
このような場合は、
- システム間の連携
- 入力項目の整理
- データの一元管理
- 入力方法の見直し
などによって、作業そのものを減らせないか検討できます。重要なのは、「入力作業を速くする」だけではありません。
「そもそも同じ情報を何度も入力する必要があるのか」
を考えることです。
2.紙・印刷・書類管理の手間を減らす
紙を使う業務にも、多くの作業が隠れています。たとえば請求書を紙で処理する場合、
- 印刷する
- 内容を確認する
- 押印する
- 封入する
- 郵送する
- 控えを保管する
- 必要になったら探す
といった作業が発生します。電子化できる業務であれば、紙や郵送にかかる費用だけでなく、こうした作業時間も見直せます。
「2025年版小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX」でも、デジタル化の取り組みとして、紙書類の電子化やペーパーレス化が取り上げられています。
ただし、すべての書類を無条件に電子化すればよいわけではありません。法令、契約、取引先との取り決め、社内ルールなどを確認し、電子化できる業務から進めることが重要です。
3.使っていないITサービスやアカウントを整理する
ITコスト削減では、契約しているサービスの利用状況を確認することも有効です。
- 退職者のアカウントが残っている
- 異動後も以前のライセンスを持ったままになっている
- 契約人数と実際の利用人数が合っていない
- ほとんど使っていないオプションを契約している
- 複数の部署が似たサービスを利用している
といったケースです。
この場合、不要な契約を整理することで、直接的なITコスト削減につながる可能性があります。アカウントやサービスを削除する場合には、データ・権限・業務への影響を事前に確認する必要があります。
「使っていないように見える=すぐに解約する」ではなく、誰が何のために使っているのかを確認することが大切です。
4.定型業務を自動化・簡素化する
毎日・毎週・毎月繰り返している業務は、改善による効果を出しやすいポイントです。
- 売上集計
- 勤怠集計
- 経費精算
- 営業進捗の集計
- 在庫確認
- 定型的な報告書の作成
- データのチェック
などです。こうした業務は、ITツールやシステムで自動化できる場合があります。ただし、『とにかく自動化する』ことが目的ではありません。まずは、『この作業は本当に必要なのか』を確認しましょう。
必要のない業務を自動化しても、システムの導入・管理コストが増えるだけです。業務そのものをなくせるなら、それが最もシンプルな改善になる場合もあります。
「コスト削減」と「業務効率化」は別々に考えない
コスト削減を考える際、「ITコスト」と「業務コスト」を別々に管理している企業もあるでしょう。
しかし、実際には両者は密接に関係しています。新しいシステムを導入するとITコストは増えます。一方で、社員の作業時間が減れば、業務コストを下げられる可能性があります。
そのため、
ITコストが増えた=コスト削減に失敗した
とは限りません。
たとえば、
導入前
- システム費用:月1万円
- 手作業:月50時間
導入後
- システム費用:月4万円
- 手作業:月15時間
という状況なら、ITサービスの費用は増えています。しかし、毎月35時間の作業を減らせています。
この場合は、ITコストだけを見るのではなく、削減できた業務時間やミスの減少、社員が別の業務に使えるようになった時間などを含めて評価する必要があります。
つまり、重要なのは、「ITにいくら使ったか」ではなく、「ITによって業務全体の負担がどう変わったか」です。
コスト削減のメリットは「経費が減る」だけではない
業務負担を減らすことを起点にコスト削減を考えると、複数のメリットが期待できます。
経費を削減できる
不要なサービス、ライセンス、紙、郵送費などを見直すことで、直接的な経費削減につながります。特に毎月発生する費用であれば、一度見直すことで継続的な削減につながる可能性があります。
社員が本来の業務に時間を使える
手作業や定型作業を減らすことで、社員がより重要な業務に時間を使えるようになります。たとえば営業担当者であれば、データ入力の時間を顧客対応に使えるかもしれません。管理部門であれば、単純な集計作業の時間を業務改善や社内サポートに使えるかもしれません。
これは単なる「作業時間の削減」ではなく、人材の時間をどこに使うかを見直すことでもあります。
業務の属人化を減らせる
特定の社員しか分からない作業が多いと、休暇や異動、退職などによって業務が滞る可能性があります。業務を整理し、手順を標準化したり、システム化したりすることで、特定の社員だけに依存する状態を減らせる場合があります。
ミスや手戻りを減らせる可能性がある
同じデータを何度も入力する作業では、入力ミスが発生する可能性があります。入力箇所を減らしたり、システム間でデータを連携したりすることで、ミスや確認作業の削減につながる場合があります。
コスト削減で「やってはいけないこと」
現場負担を減らすことを目的とするなら、削減額だけを追いかけることは避けたほうがよいでしょう。
「安いものに変える」だけにしない
現在のサービスより安いサービスを見つけても、操作が複雑になれば現場の作業時間が増える可能性があります。
料金だけでなく、
- 機能
- 操作性
- サポート
- セキュリティ
- データ移行の負担
- 現場への影響
まで確認しましょう。
システムを減らすこと自体を目的にしない
システムの数が少なければ必ず業務効率が高くなるとは限りません。一つのシステムに機能を集約した結果、操作が複雑になったり、必要な機能が不足したりすることもあります。重要なのは「システムの数」ではなく、業務がスムーズに進む状態になっているかです。
現場に作業を戻さない
コスト削減で特に注意したいのが、システム費用を削った結果、現場の手作業が増えるケースです。
「システムを解約したのでExcelで管理してください」
という変更だけでは、経費は減っても現場の負担は増えてしまいます。
コスト削減を検討するときは、必ず、
「この変更によって誰の仕事が増えるのか?」
を確認しましょう。
コスト削減を進めるなら、まず「現場の困りごと」を洗い出す
コスト削減を始めるとき、いきなり契約金額の一覧を見る方法もあります。しかし、現場負担の軽減を重視するのであれば、まず「困っている業務」を洗い出す方法もあります。
- 毎日同じ入力を繰り返している
- 同じ情報を複数の場所に入力している
- 紙の書類が多い
- Excelファイルが複数存在している
- 同じようなサービスを複数使っている
- 毎月の集計に時間がかかる
- 確認や承認に時間がかかる
- 特定の社員しか対応できない業務がある
といった項目です。こうした「小さな面倒」を集めてみると、コスト削減につながる改善ポイントが見つかることがあります。
業務負担とコストを一緒に見える化する方法
実際に改善を進める際には、業務ごとに次のような項目を整理すると判断しやすくなります。
| 確認項目 | 確認する内容 |
| 業務内容 | 何をしている業務なのか |
| 担当者 | 誰が担当しているのか |
| 作業頻度 | 毎日・毎週・毎月など |
| 作業時間 | 1回あたりどのくらいかかるか |
| 利用システム | 何のツール・システムを使っているか |
| 費用 | 月額・年額でいくらかかるか |
| 困りごと | 現場で何が負担になっているか |
| 改善方法 | なくす・減らす・自動化するなど |
| 効果 | 時間・費用・ミスなどがどう変わるか |
この一覧を作るだけでも、「費用は小さいが作業時間が大きい業務」や「費用も作業負担も大きい業務」が見えてきます。そこから優先順位を決めていけば、すべてを一度に変える必要はありません。
ITコスト削減・業務改善を導入するときに確認したいポイント
新しいシステムやサービスを導入する場合は、料金だけでなく、導入後の現場を想定することが重要です。
確認したいのは、次のような項目です。
導入前
- 現在どのような業務をしているか
- どこに時間がかかっているか
- どのような問題があるか
- 現在のITコストはいくらか
導入時
- 現場で使いやすいか
- 既存システムと連携できるか
- データ移行にどの程度の負担があるか
- 操作方法を覚える必要があるか
- セキュリティ上の問題はないか
導入後
- 作業時間が減ったか
- 現場の負担が減ったか
- ミスが減ったか
- 問い合わせが増えていないか
- 実際にコスト削減につながったか
導入時の費用だけでなく、導入後に現場がどう変わったかを確認することがポイントです。
コスト削減は「人が行う必要のない仕事を減らす」ことから
コスト削減を考えるとき、「人件費をどう減らすか」という方向に話が進むことがあります。しかし、人手不足が課題となっている現在、限られた人材をどの業務に振り向けるかという視点も重要です。
「2025年版小規模企業白書 第1節 小規模事業者の経営力の向上」では、限られた経営資源を有効活用するため、労働生産性の向上に向けてデジタル技術を活用した業務効率化に取り組むことの重要性が示されています。
そのため、「人を減らすためのコスト削減」ではなく、「人が行う必要のない作業を減らすためのコスト削減」という考え方が重要になります。
たとえば、1時間かかっていた定型作業を15分にできれば、社員そのものを減らさなくても、45分を別の仕事に使えます。
顧客対応、営業活動、企画、改善、社内サポートなど、人が判断したりコミュニケーションしたりする仕事に時間を振り向けられる可能性があります。
これは、現場にとっても経営側にとっても、コスト削減を前向きに捉える一つの方法です。
「削る」より先に「減らせる負担」を探すことがコスト削減の第一歩
コスト削減という言葉には、「予算を減らす」「経費を削る」というイメージがあります。しかし、企業の業務を見渡してみると、コストは必ずしも請求書や会計データに表れるものだけではありません。
毎日の入力、転記、確認、集計、紙の処理、システムの管理など、社員が時間を使っている業務にも負担があります。
そのため、コスト削減を考えるときには、
「何を削るか」
だけではなく、
「何を減らせば、現場がもっと仕事をしやすくなるか」
という視点が重要です。
- 二重入力を減らす
- 紙や書類の処理を見直す
- 不要なITサービスやアカウントを整理する
- 定型業務を簡素化する
- 必要に応じてシステムやツールを導入する
- 業務の重複や属人化を見直す
そして、こうした改善によって業務時間や手間を減らすことができれば、結果として業務コストの削減にもつながります。「2025年版小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX」でも、デジタル化の取り組みの一つとして、業務効率化や業務フローの見直しが位置付けられています。
大切なのは、「コストを削るために現場が我慢する」のではなく、「現場のムダな負担を減らした結果、コストも抑えられる」状態をつくることです。まずは、現在の業務を一つひとつ見直し、
「この作業は本当に必要か」
「同じ情報を何度も入力していないか」
「もっと簡単にできないか」
「この業務にどれだけの時間を使っているか」
を確認してみましょう。
大きな改革をいきなり始める必要はありません。
日々の業務にある小さな負担を見つけ、一つずつ減らしていくことが、結果として継続的な業務コスト削減につながります。
