2026年10月1日に施行された「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化」。
2020年に厚生労働省が示したパワーハラスメント防止の指針では、顧客等からの著しい迷惑行為について、企業が必要な対応を行うことが「望ましい取り組み」として示されていました。
その後、厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表されるなど、企業による自主的な対策が促されてきました。

カスハラ対策に取り組む企業が増える一方、対応に悩む企業も
カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は、近年多くの企業にとって重要な経営課題となっています。
東京都では2025年4月に「カスタマー・ハラスメント防止条例」が、名古屋では2025年10月1日に「愛知県カスタマーハラスメント防止条例」が施行され、カスハラを防止するための社会的な取り組みが本格化しています。
条例施行をきっかけに企業には従業員を守るための取り組みが求められるようになり、カスハラ対策へ積極的に取り組む企業が増えています。一方で、すべての企業が十分な対策を整えられているわけではありません。
「何をカスハラと判断するべきなのか」
「どこまでがお客様からの正当な要望で、どこからが迷惑行為なのか」
「現場担当者だけに負担が集中していないか」
こうした判断や対応方法に悩み、まだ手探りの状態にある企業も少なくありません。
これまで企業では、「お客様の意見はすべて受け止める」という考え方が重視されてきました。しかし、度を超えた要求や暴言、長時間にわたる拘束などは、従業員の精神的負担となり、職場環境を悪化させる要因になります。
そのため現在では、単にクレーム対応を現場担当者に任せるのではなく、企業全体で従業員を守る仕組みづくりが求められています。
一方で、実際の企業対応には差が出ています。
大企業では、カスハラ対応方針の策定や相談窓口の設置、対応マニュアルの整備などが進んでいます。しかし、中小企業では「人手不足で対応まで手が回らない」「どこからがカスハラなのか判断が難しい」「専門的な対策方法が分からない」といった課題を抱える企業も少なくありません。
名古屋市では、中小企業がカスハラ対策に取り組めるよう、セミナーや個別相談、対策に関する支援制度を実施しています。
特に企業が見直すべきポイントの一つが、電話対応の環境です。
カスハラは電話で発生するケースも多く、相手の表情が見えないことで、言葉による威圧や長時間対応につながりやすい特徴があります。
そのため、通話録音機能を活用して対応内容を記録したり、担当者一人に負担が集中しないよう社内で情報共有できる環境を整えたりすることが重要になります。
カスハラ対策は、お客様を遠ざけるためのものではありません。
正当なご意見には誠実に対応しながら、従業員が安心して働ける環境を守るための取り組みです。
これからの企業には、サービス品質の向上と従業員保護の両方を実現するため、電話を含めた顧客対応環境の見直しが求められています。
企業間の取引でも、カスハラは他人事ではありません
カスタマーハラスメントというと、店舗やコールセンターなどで、個人のお客様から企業の従業員に対して行われる行為をイメージされる方も多いかもしれません。
しかし、今回のカスハラ対策の対象となる「顧客等」には、企業の取引先や、その担当者なども含まれます。
そのため、BtoBの企業においても、取引先からの過度な要求や長時間の拘束、繰り返される暴言・威圧的な言動などによって、従業員の就業環境が害される場合には、カスハラへの対応が必要となります。
「お客様だから」「取引先だから」と、従業員が一人で抱え込むのではなく、企業としてどのような行為をカスハラと捉え、どのように対応するのかをあらかじめ整理しておくことが重要です。

対策が進んでいる企業が取り組んでいること
カスハラは地域を問わず発生するため、企業には全国的に対策が求められる流れになっています。
特に2025年以降は、国レベルでもカスハラ対策を企業に求める方向が進んでおり、今後は自治体条例の有無に関係なく、企業として対応体制を整えることが重要になります。
カスハラ対策が進んでいる企業では、まず「個人任せにしない仕組みづくり」が進められています。
以前は、クレーム対応は担当者の経験や対応力に任されることが多く、従業員が一人で問題を抱え込んでしまうケースもありました。
しかし現在では、企業として対応方針を明確にし、
「正当なご意見には誠実に対応する」
「暴言や威圧的な言動、過剰な要求には組織として対応する」
という基準を設ける動きが広がっています。
また、対応マニュアルの整備や相談窓口の設置、管理者への引き継ぎルールの明確化など、従業員が安心して対応できる環境づくりも進んでいます。

まだ対策が進まない企業が抱える課題
一方で、カスハラ対策が十分に進んでいない企業では、いくつかの共通した課題があります。最も大きな課題は、「どこからがカスハラなのか判断が難しい」という点です。
お客様からの意見や要望は、企業にとってサービス改善につながる大切な情報です。そのため、すべての苦情をカスハラとして扱うことはできません。
しかし、長時間にわたる説教、人格を否定する発言、過剰な謝罪要求、担当者への執拗な連絡などは、従業員の精神的負担につながります。
この境界線を現場担当者だけで判断することは難しく、企業全体として基準を作る必要があります。
また、「お客様第一」という文化が強い企業ほど、従業員が不当な要求を受けても我慢してしまう傾向があります。
顧客満足度を高めることと、従業員を守ることは対立するものではありません。持続的に良いサービスを提供するためには、働く人が安心できる環境づくりが不可欠です。

電話対応はカスハラ対策の重要なポイント
カスハラが発生しやすい場面の一つが電話対応です。
電話では相手の表情が見えないため、言葉による威圧や長時間の拘束につながりやすいという特徴があります。
例えば、
・「担当者を出せ」と何度も要求する
・同じ内容の問い合わせを繰り返す
・大声で怒鳴る
・不当な謝罪や補償を求める
といった行為は、対応する従業員に大きな負担を与えます。そのため企業では、電話対応の見直しも進んでいます。
通話録音機能を活用することで、対応内容を正確に確認できるだけでなく、「言った・言わない」といったトラブルを防ぐことにもつながります。
また、担当者一人で対応を抱え込まないよう、複数人で情報共有できる電話環境を整えることも重要です。

カスハラ対策は「お客様を遠ざけるため」ではない
カスハラ対策というと、「お客様への対応を厳しくすること」と捉えられることがあります。しかし、本来の目的はお客様との関係を悪化させることではありません。
正当なご意見にはこれまで通り真摯に向き合い、一方で従業員の人格や安全を脅かす行為からは企業として守る。
その両方を実現するための取り組みです。
これからの企業には、サービス品質を維持しながら、従業員が安心して働ける環境を整えることが求められています。
カスハラ対策は、人を守るための取り組みであると同時に、企業の信頼性を高めるための重要な経営対策と言えるでしょう。
録音・録画環境等の実践的なカスハラ防止対策を行っている企業に対し奨励金が支給されます
東京都と名古屋市で中小企業に向けた、顧客からの過度な苦情・言動に備える取り組みを支援することが発表されました。
■ 東京都
対策マニュアルの作成に加え、録音・録画環境の整備等の実践的なカスハラ防止対策を行っている企業に対し、40万円の奨励金を支給。
※予定件数を超えた場合には、受付期間中でも受付を終了することがあります。
「カスタマーハラスメント防止対策推進事業」
https://www.tokyo-cusharaboushi.jp
■ 名古屋市
名古屋市新事業支援センターが実施する「カスタマーハラスメント対策セミナー」を受講済みであること等の条件を満たす市内中小企業に対し、カスハラ対策に要した経費の半額以内(補助限度額5~30万円)を支給。
「カスタマーハラスメント対策支援補助金」
https://www.nipc.or.jp/customer_harassment
ここがPoint!
・企業向け奨励金(40万円):マニュアル整備+録音/AI/外部人材のいずれか
・団体向け奨励金(最大100万円):業界団体が複数施策を導入することで交付
・団体向け補助金(~5,000万円):条例の普及啓発と連携した活動
そもそも「カスハラ(カスタマーハラスメント)」とは
主に顧客や利用者が企業の従業員に対して行う理不尽なクレームや暴言・暴力などの迷惑行為を指します。企業側のサービスや対応に対して、明らかに過剰で不当な要求や威圧的な言動が含まれるのが特徴です。

苦情や意見がすべてカスハラになる?
ここで注意したいのは、正当なクレームや意見までがカスハラになるわけではないということです。
商品やサービスに対する正当な意見・要望を伝えることは、当然ながらカスハラではありません。
一方で、要求の内容や、その要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当な範囲を超え、従業員の就業環境を害する場合には、カスハラに該当する可能性があります。
こうした行為から従業員を守るため、これまで企業ごとの自主的な取組に委ねられていたカスハラ対策について、企業が組織として対応することが法律上求められることになりました。
企業には何が求められるのか
2026年10月1日以降、すべての事業主に対して、カスハラによって労働者の就業環境が害されることを防止するための措置を講じることが義務づけられます。
具体的には、
・カスハラに対する企業としての基本方針を明確にする
・従業員が相談できる体制を整備する
・カスハラが発生した場合に、事実関係を確認し適切に対応する
・カスハラを受けた従業員への配慮を行う
・再発防止に向けた取組を行う
・相談者等のプライバシーを保護する
・相談や事実確認への協力を理由として不利益な取扱いをしない
といった対応が必要になります。

2026年10月の施行に向けて社内での確認が必要です
各企業において以下のようなカスハラへの対応方針や社内体制を確認しておく必要があります。
□ カスハラに対する企業としての基本方針が明確になっている
□ 従業員が相談できる窓口・担当者が決まっている
□ カスハラが発生した場合の対応手順が決まっている
□ 現場の従業員に対応方法が周知されている
□ 相談者のプライバシーを保護する体制が整っている
特に、顧客や取引先からの対応を現場の担当者の判断に委ねている場合には、企業としての対応方針を整理し、現場の従業員に対応を任せるのではなく、会社全体で対応できる仕組みを整えることが重要です。
まずは、何をカスハラと判断するのか、発生した場合に誰へ相談・引き継ぐのかなど、社内のルールを明確にします。そのうえで、相談窓口の整備や対応マニュアルの作成、通話録音などの記録環境、関係部署間での情報共有体制を整備していきます。
担当者個人の経験や判断に依存せず、必要なときに組織として支援できる環境をつくることが、実効性のあるカスハラ対策につながります。
